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 ここでは“味覚センサー”というものについての紹介と,“おいしさ”というものが一体どういうものか,ということについて調べてみました.







なぜ“味覚センサー”か?

センサーと聞くと何を思い浮かべるでしょうか.僕はなぜか“自動ドア”を思い浮かべます.なぜドアの前に立つと自動的に扉が開くのか,子供のときとても不思議でした.
それぞれの人が様々なセンサーを思い浮かべるかもしれませんが,今回はそのなかでも“味覚センサー”について少し紹介します.


味覚のメカニズム


味覚センサーを見てみる前に,まず人がどのようにして味を感じているか,その仕組みについて見ていきましょう.
まず,簡単に説明します.舌には“味蕾(みらい)”と呼ばれる器官があり“味細胞”というものでできています.ここに味のもととなる物質がくると,その情報が脳に伝わり,味がわかるという仕組みです.
もう少し詳しく言うと,味の受容は味細胞の生体膜で行われます.これは,図のような形をしていて,“脂質2分子膜”(脂質が,平面状に2層になって膜状になったもの)にたんぱく質が埋め込まれている構造をしています(流動モザイクモデルといいます).
この生体膜に味物質がくっつくことによって,電流が流れ,神経伝達物質の放出を促し,接続した神経の興奮へと導くというわけです.

以上のように説明しましたが,まだ味覚に関しては完全に解明されてはいません.分からないことがたくさんあり,今もなお研究が進められています.


味とは何か?

人がどのように味を感じているかが少し分かったのではないかと思います.
一言で“味”といってもいろいろありますが,一般的に甘み,塩味,酸味,苦味,うま味の5つに分類されると言われています.辛味がこの中に含まれていないことを不思議に思う人もいるかもしれませんが,タバスコなどを肌につけるとヒリヒリとなることからわかるように,辛味は味覚ではなくて,痛覚を刺激しています.そのために,これらの基本味のなかには含まれないということです.
この基本味ですが,その味を示すもととなる化学物質があります.甘みであればショ糖やブドウ糖やサッカリンなど,塩味であればナトリウムイオン,酸味であれば水素イオンという具合です.
基本的に人はこの5つの味を基に味を感じていますが,味はそのほかのいろいろな要因によってもかわってきます.それは,文化的な影響や,本人の気分,食べる場所など実に様々なことがあげられます.
このように味というものは,単なる化学物質のみからなるのではなく,非常にたくさんのものが絡み合うことによって,初めてわかってくるものなのです.


味覚センサー

味というものは非常に複雑なものですが,これを数値であらわそうと考えられたのが“味覚センサー”です.
pHメーターの例でわかったように,味覚センサーを作るためには,味物質に相当するものがどれくらいあるかを測ればいいということが分かったと思います.
それでは,実際の味覚センサーはどういった仕組みになっているのでしょうか?
ここで考えられるのは,5つの基本味(甘み,苦味,酸味,塩味,うま味)のもととなる成分を全て測ることができればいいのではないか,ということです.ただ,この考えにはかなりの問題があります.実際の食べものや飲み物には何百種類という物質が含まれているので,どういった化学物質が含まれているかを一つ一つ特定するのは,とても大変な作業だからです.
それでは,どうすれば味を測ることができるのでしょうか?
そのヒントは,人間の味覚そのものに隠されています.人は5つの基本味を味細胞という細胞膜で受け取っています.これをそのまま応用すればいいのです.即ち,膜を用いて電極を作り,その間に発生する膜電圧を測定すればいいのです.
実際の味覚センサーでは,複数本の電極にそれぞれに異なった受容膜を用いて,各電極での電位差を測定します.これを基にそれぞれの電極にどの用に作用したかのパターンを見比べることによって,「この味とこの味は近い」といった具合に,分けているのです.


今後

味覚センサーについて見てきましたが,これはセンサーの中のほんの一部でしかありません.世の中にはいたるところにセンサーがあります.自動ドアも一つの例です.
現在,味覚センサーは,医薬品メーカーや食品メーカー,試験場や研究所などで実際に使われています.今後,味覚センサーが一般的になり,どの食品がおいしくて,どれが苦いといったことが一瞬にしてわかる時代が来るかもしれません.
味覚センサーというものは,以前まで存在しなかった味覚に対する尺度を僕たちに与えてくれます.これによって,僕たちの食生活に大きな変化が生まれるかもしれません.