聞く?効く!おくすり - くすり班

薬はなぜ効くか?

くすりの通り道を紹介したので、つぎはそのはたらき方について述べましょう。 くすりを飲んだとき、からだの中ではどのようなことが起こっているのでしょうか?

薬の原理

皆さんは、鉄がさびて赤くなったり、ろうそくが燃えたりするのを見たことがあるでしょう。このように、ある物質が 別の物質に変わることを化学変化(化学反応)といいます。

化学反応の例

化学反応は、人間のからだのなかでも起こっています。食べ物を消化して栄養を取り出すのも、からだの中で起こっている 化学反応です。そして、私たちのからだが化学反応がうまく調節できなくなると、からだの調子がおかしくなります。このとき、 くすりはからだに不足している化学反応を補ったり、炎症の原因になっている化学反応を抑えたりします。こうして、からだの 調子の悪い部分を治すのがくすりのはたらきです。

くすりの種類

また、病気は主に細菌がからだの中に侵入して起こります。細菌も化学反応によって生きているので、これらの化学反応を 抑えれば細菌を殺すことができます。こうして結核などの病気を治す薬が抗生物質です。

抗生物質の効き方と開発 ~ペニシリンの場合~

抗生物質って?

くすりの中でも、病気の原因となる微生物(目に見えない動物)の成長をさまたげるはたらきをもつ物質を、抗生物質と 呼んでいます。抗生物質にはたくさんの種類がありますが、ここではペニシリンという抗生物質について紹介します。

ペニシリンのはたらき

いまから 100 年くらい前、コレラ・結核といった、細菌が原因の病気で多くの人々が亡くなっていました。1928 年に 抗生物質“ペニシリン”が発見され、1940 年代にくすりとして使われるようになると、これらの病気はあまり怖いものでは なくなりました。では、ペニシリンはどうしてくすりとして働くのでしょうか?

ペニシリンは抗生物質なので、細菌の成長をさまたげます。細菌は病気の原因となる微生物で、下の図のような構造を しています。

ペニシリンの効果

ここでポイントとなるのは、一番外側にある細胞壁(注)という部分です。ペニシリンは、この細胞壁の合成を さまたげます。つまり、ペニシリンがあると、細菌は細胞壁をつくることができずに壊れてしまいます。こうして細菌を やっつけることで、人間のからだは病気から守られます。また、細胞壁は人間の細胞にはないので、ペニシリンによって人間が 調子を悪くすることはありません。このように、人間には無毒でも、細菌にはからだを壊す毒として作用することを、選択毒性と 呼んでいます。抗生物質は選択毒性のため副作用がほとんどありません。

次に、なぜペニシリンがあると細菌は細胞壁が作れないかを説明しましょう。

ペニシリンの薬理

細胞壁の材料となるタンパク質には、アラニンというアミノ酸が 2 つつながった部分があります。ここに酵素が作用して、 細胞壁がつくられます。ところが、ペニシリンはアラニンが 2 つつながった部分とそっくりな形をしています。そのため、 酵素は間違ってペニシリンに作用してしまい、細胞壁がつくられなくなるという仕組みです。どれだけペニシリンと アラニン-アラニン構造が似ているかを表したのが下の図です。太線の部分がよく似ていて、酵素がペニシリンとアラニンを 間違えてしまうわけです。

よく似た構造

(注)細胞壁 … 細菌の細胞は、海の中や他の生物のからだの中など、いろいろな環境に 置かれます。それぞれの環境で細胞にかかる力(浸透圧)が違うので、からだを支える細胞壁が必要になります。細胞壁が 壊れると、細胞の中に水が入って細胞が壊れてしまいます。人間など動物の場合、細胞は一生からだの中にあるので、細胞壁が ありません。

ペニシリンの発見と改良

最後に、ペニシリンがどのように発見されて、どのように改良されてきたかを紹介しましょう。1928 年の夏の終わりのこと。 微生物の研究をしていたフレミングという科学者が、黄色ブドウ球菌という細菌を研究のために育てていました。彼が休みで 研究室を離れていたとき、下の研究室で育てていたカビが入り込みました。そのうち暑い日が続いて、カビと黄色ブドウ球菌が 共に増えていきました。さて、夏休みが終わってフレミングが研究室に帰ってくると、黄色ブドウ球菌を育てている皿にカビが 生えています。驚くべきことに、皿全体に黄色ブドウ球菌が増えているのに、カビの生えているところだけは黄色ブドウ球菌が ありません! 実は、カビはペニシリンを自分で合成していて、周りの黄色ブドウ球菌を殺していたのです。これが、 ペニシリンの発見でした。その後、1939 年にフローリーとチェーンという科学者がペニシリンをカビから取り出すことに 成功し、抗生物質として多くの人々の命を救うことになります。

さて、ペニシリンの性質は前のページの図で R という記号で示した側鎖の種類によって変化します。

ペニシリンの改良

初期のペニシリン(ペニシリン G)は、胃液によって壊れてしまう性質を持っていて、口から飲んでも効果が でませんでした。そこで、この側鎖を改良して、胃液にも耐えられるペニシリン V が開発されました。さらに、 β-ラクタマーゼという酵素をもつ細菌(耐性菌)はペニシリンを分解してしまい、ペニシリンが効かないとう欠点が ありました。そこで、ペニシリン V の側鎖を大きくして、β-ラクタマーゼがペニシリンに近づけないようにすると、 耐性菌にも有効なフルクロキサシリンが開発されました。

このように、新しいくすりの開発する方法の 1 つに、今あるくすりの一部を改良する方法があります。

http://www.t-scitech.net/history/miraikan/medicine/medicine/how_to_work.html