聞く?効く!おくすり - 毒班

人が作った毒

化学兵器

化学兵器とは、人に強い害を与える化学薬品を兵器として使用するもので、その多くは毒ガスです。呼吸により呼吸器や 消化器からはもちろんのこと、皮膚からも体内に侵入し毒性を発揮します。毒ガスには、糜爛(びらん)剤や神経剤、催涙剤、 窒息剤などがあります。糜爛剤は、皮膚をただれさせるものです。毒ガスは、第一次世界大戦中にドイツやフランスにより、 塩素ガスやホスゲン(塩化カルボニル)などが使われ始めました。いずれの毒ガスも呼吸器系に大きなダメージを与えます。 続いて、旧日本軍も使用したマスタードガス(イペリット)やナイトロジェンマスタードなどが糜爛剤として開発されました。 糜爛剤の特徴は、ガスに触れた皮膚をただれさせるので、ガスマスクだけでは防げないことです。

その後、ナチスドイツにより神経毒である、タブンやサリン、ソマンという毒ガスが相次いで発見されました。神経毒の 一つサリンは、人の神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素、コリンエステラーゼと結びついて、その作用を 妨げます。これによりアセチルコリンが分解されなくなり、過剰な刺激が伝わる結果、筋肉の痙攣が起こります。 また、サリンは皮膚からも吸収されるので、ガスマスクだけでは防げません。

このように恐ろしい毒ガスですが、サリンなどの神経毒は化学構造の中心にリンがあり、有機リン系の農薬と非常に よく似ています。人にとって非常に有用な農薬も、人に害を与える化学兵器も、化学構造という点では実は大した違いが ありません。

毒ガスは皮膚からも侵入する

何年も経ってから効いてくる毒

毒は、体内に入った直後に作用するものばかりではありません。「毒を摂取した母体にはあまり影響がないが、 その子供に影響が現れる毒」である遅延毒や、最近よく耳にする環境ホルモンがその一例です。これらが恐ろしいところは、 毒を直接摂取した人だけでなく次の世代にも影響を与え、さらに毒性があるかすぐには分からないことです。

PCB

PCB とはポリ塩化ビフェニルのことで、化学的に非常な安定な物質です。そのため、不燃性、電気絶縁性、微生物により 分解されない等の非常に優れた特性を持っています。しかし、PCB には人に対して毒性があることがあることが、後に 分かりました。PCB が体内に入ると、発疹や肝機能障害、月経障害を引き起こし、さらに母乳を通じて乳児にも影響を 及ぼします。加えて、環境ホルモン(後述)の作用もあることが最近分かっています。

PCB のタチが悪い点は、化学的に安定であるために容易に分解されないため長期にわたり影響を及ぼし、さらには脂肪に 蓄積されるので、生体濃縮を繰り返して食物連鎖の頂点にいる人間に強い影響を与えます。

生物濃縮

合成ホルモン

1960 - 1970 年にDES(ジエチルスチルベストロール;母体にはあまり影響が無くても、胎盤を通して赤ちゃんには大きな 影響を与える)という女性ホルモンと化学構造がよく似た物質が、合成女性ホルモンとして医療目的で使用されました。DES は、 安価で大量に化学合成できるのが特徴です。しかし、DES を投与された女性から産まれた女児が高確率で生殖器のガンに なることが後に発覚し、この時すでに DES は 500 - 600 万人に投与されていて、多くの被害者を出しました。

これは、“毒性があるかすぐには分からない”という遅延毒の怖さが、現実のものになってしまったと言えるでしょう。 このように、直接毒を摂取していない子供に対して影響が出るのも、遅延毒の恐ろしいところです。

遅延毒

環境ホルモン

次に、環境ホルモンとは、「ホルモンを攪乱することで、人体への影響を与える化合物」のことで、生殖や発育という生物の 基本的な基本的な機能に影響を与えます。特に危惧されている影響として、男性性器の奇形、萎縮、欠如や精子の減少など オスがメス化してしまうことです。他にも、甲状腺の異常などを引き起こします。

具体的な物質としては、DDT やダイオキシン、PCB、ビスフェノール A といった物質があげられます。このうち、 ビスフェノール A はプラスチック製の食器などに使用されるポリカーボネート樹脂に添加されています。そのため、加熱などに より食品に溶け出す危険性が指摘されています。男性の方は特に注意が必要でしょう。

毒だけど、毒じゃない?!

毒というと悪いイメージが強いですが、毒は人間の生活にとって欠かすことの出来ないものでもあります。例えば、農薬が 無ければ作物は様々な病気や害虫の被害に遭い、殺虫剤がなければ家の中はゴキブリやハエだらけになり、それらが媒介する 伝染病に人は脅えることになります。このように、毒は見方を変えれば人にとって非常に有益なものです。

ところで、「ケミカル・アブストラクツ」誌によれば、現在約2000 万種もの化合物が存在し、さらに、毎週約 3 万の 新しい化合物が登録されているそうです。この膨大な種類の化合物の中には、人にはあまり毒性を示さないが、人以外に対しては 強い毒性を示す物質があります。このような物質の性質を選択毒性といいます。 これは、例えば人と昆虫では生物学的な構造が大きく異なることなどにより現れる性質です。

「人に有益な毒」として挙げた、殺虫剤などの多くはこの選択毒性を利用して作られています。つまり、対象とする 生物(ゴキブリ、ハエetc )には非常に毒性が強いが、人にはあまり毒性がないものを殺虫剤として使用することで、人への 影響を最小限に抑えているのです。人に対する毒性の強さを表す指標に、LD50 値(経口投与した場合に 50% の人が死に至る量) というものがあり、体重あたりの許容量 mg/kg で表します。この LD50 値で考えると、食塩の LD50 値は食塩が 3750 mg/kg で あるのに対し、ゴキブリ用殺虫剤に含まれるピレスロイドという成分の一部は 4000 mg/kg であり、食塩よりも毒性が低いものも あります。これは人に対する毒性が相当弱い殺虫成分の場合ですが、このように選択毒性を利用して、より安全な殺虫剤が 作られています。虫の体内では容易に分解・排出できないが、ヒトの体内では分解されたり、排出されてしまうので 毒性が強くないのです。

※人にも強い毒性を示す成分も殺虫剤等(特に業務用として使われる農薬や殺鼠剤)として使われており、人に対して 絶対安全な訳ではありません!

選択毒性
http://www.t-scitech.net/history/miraikan/medicine/poison/manmade.html