「毒」という言葉には「人の命や健康を害するもの」という意味があります。一方、「薬」という言葉は「病気や傷などを 治したり、健康を保持したりするもの」という意味で、「毒」と「薬」という言葉は全く逆の意味を持っています。
しかし、科学的に見た場合、「毒」と「薬」はどちらも「人体に影響を与える物質」であり、本質的には同じ物であると 考えられるのです。毒と薬は、別個に存在するのでなければ、一部が重なるわけでもない、一つの同じ枠の中で考えるべき ものなのです。
例えば、猛毒として知られるトリカブト。これに含まれるアコニチンという物質は、神経の伝達を阻害する性質があります。 しかし、神経が必要以上に興奮しているときにアコニチンを投与すれば、その性質を利用して体を正常な状態に戻すことが 出来ます。猛毒であったアコニチンが、その使い方次第で薬としても働くのです。
ある物質が毒となるか薬となるか、その境目はどれだけ摂取したかによります。基本的に、ごく少量であれば毒性も薬効も 示しません。ある程度からは薬効を示すようになり、量が増えるにつれ毒性も出てきます。そして一定以上を摂取した場合、 中毒症状が表に出てくることでしょう。大事なのは、こういったことは何も特殊な物質に限らない、ということです。砂糖や塩、 油なども、一定量を超えて摂取すれば中毒を起こしたり、最悪死に至る場合もあります。身の回りに存在する物質、その全ては 摂取量次第では毒になり得るのです。
毒をその起源や性質、働きなどから区分する方法は何種類もあります。 ここでは、毒の作用から 6 種類に分けて説明します。
体内に吸収されてから、内臓を直接冒す毒です。それこそ、冒される臓器ごとに様々な種類の物があります。 キノコ毒の一部や、亜砒酸などがこれに当たります。
血液を冒す毒です。大きく分けて、3 つに分けられます。まずは血液が固まるのを防ぐ毒。通常、血液には空気に触れると 固まる性質があるのですが、それを邪魔し、固まらせません。一部のヘビやクモの毒に含まれています。血を固まらせない性質を 利用し、手術中に血が固まらないようにする薬としても使われます。
次に血液中の赤血球(酸素を運ぶ細胞)を壊す毒。赤血球が壊れることにより、体中の細胞に酸素が行き渡らず、細胞が 酸欠で死んでいきます。一部のヘビの毒などに含まれています。
3 つ目に、赤血球に結合し、酸素を運ばせなくする毒。毒が働いた結果は 2 番目の物とさほど代わりはありません。 一酸化炭素や青酸カリなどがこれにあたります。
神経の働きを邪魔する毒です。神経の伝達が邪魔されることにより、その先にある筋肉が収縮したままになったり、逆に 収縮できなくなったりして動けなくなります。この種の毒はコブラなどが持っています。餌となる動物にこの毒を効かせ、筋肉が 動かなくなって逃げられないようにするのです。
癌を引き起こす毒です。通常、人間の体内では 1 日あたり数個の癌細胞が生まれますが、より多く癌細胞を生み出させる イニシエーターと、生まれた癌細胞の癌化を促進させるプロモーターの 2 つに分けられます。ワラビのアクや 焼き魚の焦げなど、通常の食品に含まれていることも多いため注意が必要です。きちんとアク抜きをしたり、焦げた部分は 食べないようにしたりする必要があるでしょう。
接触した皮膚や粘膜の細胞を壊す毒です。硫酸などの強酸や苛性ソーダなどの強アルカリ、水銀などの重金属などが これに当たります。こういった物質を取り扱う際は、手についたり目に入ったりしないよう、細心の注意が必要です。
これは今までの毒とは少し違い、接種した本人には影響を及ぼしません。そのかわり、摂取した女性のおなかの中にいる 胎児に影響を与えます。一見影響が出たのかどうかが判断しにくく、結果が出たときにはすでに手遅れとなっている場合も多い、 恐ろしい毒です。サリドマイドなどがこれに当たります。