はしか、みずぼうそう、風疹など、多くの病気は子供のときに予防接種をうてば一生有効です。しかし、インフルエンザは 大人でも毎年予防接種が必要です。その理由は、A 型インフルエンザには非常に多くの種類があり、毎年違う型の インフルエンザが流行するからなのです。では、どのようにしてインフルエンザウイルスは種類間を変化していくのかを 見ていきましょう。
A 型インフルエンザウイルスには「大きい変化」と「小さい変化」があり、これらを頻繁に繰り返しています。ここでは、 「大きい変化」の方に着目してみます。前ページでインフルエンザウイルスの構造について書きましたが、実は、HA には 15 (※)、NA には 9 もの種類があるのです。15 種類の HA は H1, H2, H3, ... H15 、9 種類の NA は N1, N2, N3, ... N9 と いうように番号が付けられています。HA には 15 種類、NA には 9 種類あるので、合計では 15 × 9 = 135 種類もの A 型インフルエンザウイルスが存在するのです。これらのウイルスは全て別のA型インフルエンザウイルスなのです。
H1N1 型、H1N2 型……というようにそれぞれのインフルエンザウイルスは呼ばれていますが、いくつかのウイルスには 特別な名前が付けられています。たとえば、ニュースなどで出てくる「香港 A 型」のウイルスというのは、H2N3 型の インフルエンザウイルスとのことです。このように、A 型インフルエンザウイルスにはさまざまな種類があるのです。
上のように、インフルエンザウイルスにはたくさんの種類があります。ウイルスは本来は「大きな変化」を変化は起こさず、 同じ種類のままであり続けるのですが、時として、「大きな変化」を起こして違う種類のウイルスに移り変わるのです。 それが、ハイブリッドウイルスというものです。
人に感染するインフルエンザウイルス、鳥に感染するインフルエンザがあります。本来、鳥のインフルエンザウイルスは 人には感染せず、人のインフルエンザウイルスは他の動物に感染することはありません。
しかし、多くの動物が共存する環境では、この 2 つのウイルスがまた別の動物の中に入ることがあります。たとえば、 右図のように人インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスがブタの中に入ってしまったときを考えてみます。
すると、ブタの体内の同じ細胞内で、違った遺伝子を持った 2 種類のインフルエンザウイルスが共に入ってしまうことが あります。その細胞内で、どちらのウイルスも増殖しようとする結果、その 2 つのウイルスの遺伝子が混じった新たな ウイルスができてしまうことがあるのです。このウイルスはハイブリッド(混合種)ウイルスと呼ばれます。
右図では、人インフルエンザウイルスの遺伝子は灰色、鳥インフルエンザウイルスの遺伝子は青色で書いてあります。ブタの 体内でできてしまった、灰色と青色の遺伝子が混じってしまったものがハイブリッドウイルスなのです。
遺伝子が変化すると、それによって HA と NA の種類も異なってくるため、これがいわゆるインフルエンザウイルスの 変化なのです。このハイブリッドウイルスは、もとのインフルエンザウイルスとは別物であるため、私たちは抗体を 持っていません。そのため、時としてインフルエンザの大流行を起こすのです。