取れたて!旬だね!食材の化学

コロイドとゲル ~ジャムは水に溶けるか?~

1. 形を変える

1.1. 始めに

さて、いきなりですが餡ことジャムです。 パンに入れたり塗ったりするこの二つ、実は大事な共通点があるのですが、何か分かりますか?

答えは簡単。「形を変えられる」です。 何を当たり前のことを、と思われるかも知れませんが、これはとても大事なことなのですよ。 試しに身の回りを見渡してみて下さい。餡こやジャムのように簡単に形を変えられる物、一体どれだけありましたか?  殆ど無いのではないかと思います。

私たちの身の回りにある物は、大きく分けて固体液体気体の 三つに分けられます。固体は石やガラス、金属などのことで、固くしっかりとした形を持っています。 強い力を加えれば形を変えることも出来ますが、思い通りに形作るのは大変です。液体は水や油などの ことで、何か容器に入れないと一つの形を保つことは出来ません。その代わり、容器に併せて自由に形を変えることが出来ます。 気体は空気や台所のガスなどのことで、ふわふわと簡単に形を変えてしまいます。 きちんと蓋の出来る容器にでも入れない限り、一つの形を保たせることは出来ません。

餡こやジャムのように容器などを使わずとも簡単に自由に形を変えらるものは、この三つのうち固体液体の中間の性質を持っています。この様な性質を示す物として、コロイドゲルという物があるのですが、今はその説明に入る前に、 あんこやジャムが実際に形を変えるかどうか実験をしてみましょう。

1.2. 実験

それでは、実験に移りましょう。皿の上に餡ことジャムを用意して、スプーンで押しつぶしてみます。 果たしてどの様に形を変えていくことでしょうか。

ちょっと暗くて見にくいかな。

これをスプーンで押しつぶしてみます。

少々グロいかもしれない……。

見事、力をかけた方向に形が変わりました。ですが、底にあるお皿は形を変えていません。これは、餡こやジャムが さっき出てきたコロイドゲルという物だからなのですが、その説明は又もう少し後になります。

次は餡こやジャムを水に溶かしたらどうなるか? というお話です。 早く教えろ~ なんて言わないで、暫く付き合って下さいね。

2. 水に溶かす

2.1. 溶ける物、溶けない物

次は餡こやジャムを水に溶かすとどうなるか、というお話です。 ですが、それに入る前に、そもそも「水に溶ける」というのがどういう事なのか考えて行きましょう。

塩やお砂糖などを水に入れ、良くかき混ぜるとそれらは溶けてしまいます。 一方、石やガラスを水に入れてもそれらは溶けてくれません。これはどうしてでしょうか? 

水の中に石がごろっと転がっていても、それを「石が水に溶けている」とは言いませんよね。 水の中にはまだ石が目に見える姿で残っています。一方、塩を水に溶かした場合、元の塩の粉は水の中に見えなくなります。 これは、塩が水の中で目に見えないほど小さな粒にばらけてしまったからです。 こうやって、目に見えないほど小さな粒にばらけてしまうことを、「溶ける」と呼ぶことに致しましょう。

2.1. 実験

それでは、餡ことジャムを水に溶かしてみましょう。 まずはコップに水を用意して、その中に餡ことジャムを入れてみます。

餡こ in 水
餡こ
ジャム in 水
ジャム

これを良くかき混ぜてみましょう。

餡こ in 水
餡こ
ジャム in 水
ジャム

餡こは水に溶けましたが、ジャムは水に溶けていません。これは、餡こがコロイド、 ジャムがゲルであることの良い証明になっています。とは言え、未だコロイドゲルの説明はしていませんでしたね。次に、その説明に入ります。

3. コロイド・ゲル

3.1. コロイド・ゲルって何?

コロイド それではようやくお待ちかねの、コロイド・ゲルの説明に入ります。

コロイドとは、物体が10-9 - 10-6 m の大きさの細かな粒となり、左の図のように水などの液体中に 散らばっている状態です。粒の大きさが水の分子などに比べて大きい為、コロイドは光を通さず濁って見えます。液体の割合に より、餡このようにある程度の堅さを示す物から牛乳のように完全に液体として振る舞う物まで様々な状態があります。

ゲル ゲルとは、繊維が絡まり合い、右の図のように網目状になった状態を言います。網目の中には、水を始め様々なものを 取り込む事が出来ます。ゲルを形作る繊維の種類や網目状になる方法によって様々な種類のゲルが存在します。

3.2. どうして形を変えるのか?

コロイド 次に、コロイドやゲルがどうして自在に形を変えることが出来たのかを考えていきましょう。

コロイドが沢山の粒が集まった物だと言うことは先ほど説明しましたね。その為、餡このように液体の少ないコロイドでは、 粒の配置を換えることによって自在に形を変えることが出来るのです。左の図は、コロイドの塊に力がかかり、 粒の配置が換わることによって全体の形が変わっていく様子を示しています。

ゲル ゲルの網目構造はとても柔軟に出来ています。その為、力がかかったときはゲル全体が変形することによってその力を吸収する ことが出来るのです。ミカンのネットを引っ張ると形が変わりますよね。それと同じ理屈です。右の図は、ゲルに力がかかった とき全体が変形していく様子を示しています。網目構造が変形しても、その中にある物質には殆ど影響はありません。

3.3. 水に溶けるか溶けないか

先ほどのあんことジャムを水に溶かす実験を思い出してみましょう。餡こは水に溶けましたが、 ジャムは溶けませんでしたよね。これは、餡こがコロイドでジャムがゲルであることと密接に関わっています。

コロイド 水に溶けるかどうかを確かめることで、その物質がコロイドであるかゲルであるかを判断することが出来ます。 (もっとも、厳密にはこれだけで分かるわけではありません。)

コロイドは小さな粒から成り立っています。その為、水などの液体を加えると粒がバラバラになり、溶けてしまうのです。 コロイドの粒は光を完全に通せるほど小さくはないので、コロイドの溶液は濁って見えます。

ゲルの場合、網目構造が崩れない限りバラバラになって溶けていくようなことはありません。ジャムを構成するゲルは ペクチンという物質なのですが、これは水ぐらいでは壊れたりしない物質です。その為、ジャムを水に入れても 溶けることはありません。しかし、水に弱い物質で出来たゲルなど、水に溶けるゲルも存在します。

参考資料

文責:齋藤鷹一

http://www.t-scitech.net/history/miraikan/shokuhin/kouzou1.html